介護保険は「使わないともったいない」制度です
40歳から保険料をはらいつづけているのに、いざ家族に介護が必要になっても「なにをどうすればいいかわからない」という方はすくなくありません。介護保険のしくみをくわしく知らないまま、つかえるサービスを見のがしているケースもおおいのが現状です。
介護保険は、要介護(要支援)と認められれば、かかった費用の1〜3割のじこ負担で介護サービスをつかえるしくみです。のこりの7〜9割は保険でまかなわれます。知らなければ全額じひになるサービスが、認定ひとつで1割負担になる――つかわない手はありません。
第1号被保険者(65歳以上): 原因を問わず要介護・要支援の状態になれば利用可。第2号被保険者(40〜64歳): 末期がん、関節リウマチなど16種類の「特定疾病」が原因の場合のみ利用可。
この記事では、申請から認定、サービスの選び方、費用の仕組みまで、介護保険を使い始めるまでの全手順をひとつずつ解説します。

申請から認定までの流れ
介護保険を使うには、まず市区町村の窓口で「要介護認定」の申請が必要です。申請から認定まで通常30日ほどかかります。
ステップ1: 市区町村の窓口に申請する
おすまいの市区町村の窓口、または「地域包括支援センター」に申請書をだします。ご本人のほか、ご家族やケアマネジャーが代わりに申請することもできます。
もちものは介護保険の被保険者証(65歳以上の方にはとどいています)と、かかりつけ医のお名前です。かかりつけ医がいないときは、市区町村から紹介してもらえます。
地域包括支援センターは全国の市区町村に設置されており(ブランチをふくめると7,000か所以上)、介護にかんするあらゆる相談を無料でうけつけています。「まだ介護が必要かわからないけど心配」という段階でも気軽に相談できます。担当地域のセンターは市区町村のウェブサイトで確認できます。
ステップ2: 認定調査を受ける
申請のあと、市区町村から調査員がご自宅をおとずれます。からだやこころの状態について74の項目をチェックし、ふだんの暮らしでどのくらいの手だすけが必要かをしらべます。
この調査で大切なのは「ふだんどおりの様子をありのまま伝えること」です。調査員のまえでは緊張して、いつもよりしっかりした受けこたえをしてしまう方がおおく、じっさいよりかるい判定になってしまうことがあります。ご家族がそばにいて、ふだんの様子をおぎなって説明するのがおすすめです。

ステップ3: 主治医意見書
市区町村がかかりつけ医に意見書のさくせいをたのみます。この費用はご本人の負担ではありません。意見書にはご病気のようす、ものわすれの程度、介護がどのくらい必要かなどがまとめられます。
ステップ4: しんさ → 認定
コンピュータによるいちじ判定と、お医者さんや介護の専門家でつくるしんさ会によるにじ判定のふたつをへて、要介護度がきまります。けっかは申請からおおむね30日いないに届きます。
結果に不服がある場合は、都道府県の「介護保険審査会」に審査請求できます。請求期限は通知を受け取った翌日から3か月以内です。また、状態が変化した場合は「区分変更申請」をすれば再度調査を受けられます。区分変更申請は期限なく、いつでも可能です。
要介護認定の7段階 — それぞれで受けられるサービスの違い
認定結果は「非該当」「要支援1〜2」「要介護1〜5」の8段階です。段階によって使えるサービスの種類と月額の支給限度額が異なります。
| 認定区分 | 心身の状態の目安 | 月額支給限度額(目安) |
|---|---|---|
| 要支援1 | 日常生活はほぼ自立だが一部見守り・手助けが必要 | 約5.0万円 |
| 要支援2 | 要支援1より介助が必要だが改善の見込みあり | 約10.5万円 |
| 要介護1 | 立ち上がり・歩行が不安定、認知機能低下の兆し | 約16.7万円 |
| 要介護2 | 身のまわりの世話に一部介助が必要 | 約19.7万円 |
| 要介護3 | 身のまわりの世話・立ち上がりに全面的な介助が必要 | 約27.0万円 |
| 要介護4 | 日常生活の多くに全面的な介助が必要 | 約30.9万円 |
| 要介護5 | 日常生活全般に全面的な介助が必要、意思疎通が困難 | 約36.2万円 |
支給限度額の範囲内であれば、自己負担は1〜3割です。限度額を超えた分は全額自己負担になります。

自己負担割合の仕組み
介護サービスのじこ負担わりあいは、ご本人の所得におうじて1割・2割・3割のいずれかにわかれます。厚生労働省がさだめた基準にもとづき、毎年判定されます。
- 1割負担: おおくの方がここにあてはまります
- 2割負担: ご本人の合計所得金額が一定いじょうで、年金しゅうにゅうとその他の所得のあわせた額が単身で280万円いじょうの方
- 3割負担: さらに所得がたかく、年金しゅうにゅうとその他の所得のあわせた額が単身で340万円いじょうの方
くわしい基準はお住まいの市区町村の窓口でかくにんできます。負担わりあいは「介護保険負担割合証」にきさいされており、毎年7〜8月に届きます。
さらに、ひと月のじこ負担がきまった上限をこえたばあい、こえた分がもどってくる 「高額介護サービス費」 というしくみがあります。ふつうの所得の方で月44,400円が上限です。知らずに申請しない方もおおいので、ケアマネジャーにかくにんしましょう。
医療費と介護費の年間合計が一定額を超えた場合、超過分が返金されます。医療と介護をどちらも利用している世帯では大きな負担軽減になる制度ですが、自分で申請しないと適用されません。毎年8月に計算期間がリセットされるため、7月末に一度確認するのがおすすめです。

利用できる介護サービスの全体像
介護保険で利用できるサービスは大きく3つに分かれます。
在宅サービス(自宅で利用)
おうちで暮らしながらつかえるサービスです。おもなものは、ホームヘルパーさんがきてくれる「訪問介護」、看護師さんによる「訪問看護」、日帰りでかよう「デイサービス」、みじかい期間あずかってもらえる「ショートステイ」などがあります。
なかでもデイサービスは、おふろや食事、からだをうごかすトレーニングなどを日帰りでうけられます。ご本人のリフレッシュになるだけでなく、介護をしているご家族がすこし休める「レスパイト(休息)」にもなります。
施設サービス(施設に入所)
要介護1以上(特別養護老人ホームは原則要介護3以上)の方が入所できる施設サービスです。特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護医療院の3種類があります。
地域密着型サービス
住みなれた地域でのくらしを支えるサービスです。「通い・訪問・とまり」をくみあわせた小規模多機能型や、認知症の方がともにくらす「グループホーム」などがあります。認知症の予防と食事についてもあわせてお読みください。
車いす、介護ベッド、歩行器、手すりなどの福祉用具は、介護保険でレンタルまたは購入できます。レンタルの場合は月額の1〜3割負担ですみます。また、住宅改修(手すり設置、段差解消、滑り止め工事など)にも上限20万円の支給があり、自己負担は1〜3割です。

ケアマネジャーの選び方
要介護1いじょうと認められたら、ケアマネジャー(介護の専門家)にケアプランをつくってもらいます。ケアプランづくりの費用はすべて保険でまかなわれ、ご本人の負担はありません。
ケアマネジャーえらびのポイントは3つあります。
1. はなしやすさ: 介護のなやみやのぞみをきちんと聞いてくれるかどうかがいちばん大切です。あいしょうが合わなければとちゅうで変えることもできます。
2. 地域のじょうほう: 地元でながく活動しているケアマネジャーは、あきのある施設やひょうばんのよいサービスのじょうほうをたくさんもっています。
3. 医療との連携: 持病がある場合、医療系の資格(看護師・理学療法士など)をもつケアマネジャーは医療面の判断に強い傾向があります。
ケアマネジャーとの相性は重要です。説明がわかりにくい、要望を聞いてくれない、連絡が遅いなどの不満がある場合は、遠慮なく担当を変更できます。変更に費用はかかりません。地域包括支援センターに相談すれば、別の事業所を紹介してもらえます。
海外との比較からみる日本の介護保険の特徴
日本の介護保険は、ドイツの介護保険(1995年にはじまった)をお手本に2000年につくられました。WHO(世界保健機関)やOECDからは、高齢化がすすむなかでの先進的なしくみとして高くひょうかされています。
ドイツでは、ご家族が介護をするばあいに「介護手当て」というおかねがしはらわれます。日本のしくみは「サービスそのものを届ける」かたちで、ご家族へのおかねのしはらいはありません。このちがいは海外のけんきゅう者からよく指摘されるポイントです。
いっぽう、日本が世界にさきがけてすすめているのが「地域包括ケアシステム」です。すまい・医療・介護・よぼう・せいかつ支援をまとめてとどけるしくみで、WHOの2015年のほうこくでも「Integrated Community-based Care」のモデルとしてしょうかいされました。

よくある質問

Q. 介護保険料はいくらですか? 65歳いじょうの保険料は市区町村ごとにことなり、ぜんこく平均で月やく6,000〜7,000円です(2024年度)。年金からさしひかれるのがふつうです。40〜64歳の方は、はいっている健康保険のなかに含まれています。くわしくは年金のしくみもごらんください。
Q. 申請してからサービスをつかえるまで、どのくらいかかりますか? おおむね30日ほどです。ただし、きゅうに介護がひつようになったばあいは「仮のケアプラン」をつくって、認定けっかがでるまえからサービスをつかいはじめることもできます。けっかがでたあとにさかのぼって保険がつかえます。
Q. 認定をうけたらすぐにサービスをつかわないといけませんか? いいえ。認定をうけても、すぐにつかう必要はありません。有効なきかん(あたらしく認定されたばあいは6か月、こうしんは最長48か月)であれば、ひつようになったときにはじめられます。
Q. 家族がとおくにすんでいるばあいはどうすればいいですか? 地域包括支援センターにお電話で相談できます。申請の代行やケアマネジャーのしょうかいもしてくれます。はなれてくらすご家族の介護については、「介護休業」(雇用保険)のしくみもあわせて知っておくとあんしんです。認知症予防の食事についてもお読みいただくと、より安心につながります。
まとめ — 早めの情報収集が安心につながります
介護保険をつかうには、まず市区町村への申請からはじめます。認定を受けて要介護度がきまれば、ケアマネジャーといっしょにケアプランをつくり、ひつようなサービスを1〜3割の負担でつかえるようになります。
「まだだいじょうぶ」とおもっている今のうちに、おすまいの地域包括支援センターのれんらく先だけでもしらべておくことをおすすめします。いざというときのあんしんかんがちがいます。
介護に必要な費用の全体像については、老後のお金の備え方でくわしく解説しています。健康面が気になる方はシニアの健康管理ガイドもあわせてお読みください。葬儀やお墓、遺言書��こ��も含めて身のまわりの準備をしたい方は終活チェックリストをご参考ください。

参考文献
- World Health Organization. "World Report on Ageing and Health." WHO, 2015.
- OECD. "Long-term Care Resources and Utilisation: Japan." OECD Health Statistics, 2024.
- Tamiya N, et al. "Population ageing and wellbeing: lessons from Japan's long-term care insurance policy." The Lancet, 2011.
- Campbell JC, Ikegami N. "Long-Term Care Insurance Comes to Japan." Health Affairs, 2000.
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」2024年.

